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呪いに蝕まれて命がけで

撮れてるか? あーあーあー。よし。
これを聞いている君たちが善良であることを祈ろう。君たちは真実に近い場所にいる。
私が知るのはあの化け物の正体と封じ方だ。封じる力は、残念だが私にはない。
早速だが、あれの正体は、ごふっ。げほっ、ごほっ。
くそ、録音でさえ呪いが。げほっ。情報を残すのも命がけか。
良く聞け。一度しか言えないし、この映像は終了後自動的に削除される。
あれは、がはっ。千年前の儀式で生まれた呪いだ。

スパイのボスが軽薄に

ハロー! マイエージェント。
今日も眉間のしわがチャーミングだね。ふふ、見えてるのかって?
残念でした。これは録画です。この映像は終了後自動的に削除されるよ。
くはは! 嫌そうな顔が目に浮かぶね。
さて、本題だ。君の口癖は「人手不足だ、クソ」だったよね?
予算獲得頑張っちゃった! 褒め称えてくれて構わないよ。
精鋭のサポートから、もうすぐ、具体的には5分42秒後に接触がある。仲良くしてね。
じゃあね。バーイビー。

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笑うんじゃないか

あらすじ

売れない児童向けミステリー作家と編集者の掛け合いです。
作家が編集にツッコミ続けるコメディタッチの打ち合わせがだんだん不穏に、最後は更に怖くなる展開です。

登場人物

作家 児童向けのミステリー作家。デビュー作はヒットしたがその後売れていない。
編集 児童文学レーベルピヨピヨノベルの編集。作家とはデビューから5年の付き合い。

本編

○出版社のビル内、編集部の脇の机 昼
(タイピング音や人の話し声のざわめき)

作家「どうでしょうか」
編集「うーん、いまいち、リアリティがないんですよね」
作家「リアリティ、ですか」
編集「殺したあと、笑います? 僕なら気持ち悪くて吐いちゃうと思うなあ」
作家「いやいやいや、笑ったのは、苦節5年憎くて憎くて憎くてたまらない相手を殺せたからで」
編集「うーん、縛ったあと、何度も何度も殴りつけるんでしょ? 血とか肉とかでグロすぎる絵じゃないですか? ぶわーっとにおい立つような血生臭い絵、浮かんでます?」
作家「ピヨピヨノベルでグロ推しですか? 小学生向けの児童文学で」
編集「子供向けだからってね、イメージが大事なんですよ、ビジュアル的なイメージが。せっかくキャッチーなタイトルなんですから!」
作家「……そのタイトル、わたしは『憎しみの湯けむり』だけで良いと思うんですが」
編集「『憎しみの湯けむり〜うんちマーダー事件簿〜』いいじゃないですか! 売れますよ、シリーズ化したいですよ」
作家「うんちマーダー事件簿シリーズですか」
編集「キャッチーでしょ? キャッチ―じゃないとメディアミックスしづらいでしょ? やっぱ映画化とかしてドカーンとね、やんないと、売れないから、最近」
作家「いやあの、別に映画化とかそんな」
編集「ほら、このヒロイン、今話題の還暦アイドルワカポンにぴったり!」
作家「中学生役を還暦が!?」
編集「いけますいけます、既存の枠にとらわれないようなビッグでデンジャラスでエンターテインメントな作品期待してるんですよ先生には! デビューからちょーっと売れてないだけで自信なくさないでください」
作家「もう5年鳴かず飛ばずですが……」
編集「デビュー作は売れたでしょ! ていうか僕が売った?的な? ははっ、だからね、この敏腕編集を信じて、売るためにもうちょっとリアリティある描写をね」
作家「リアリティ……リアリティですか」
編集「うーん、そうだ、先生、人、殺したことあります?」
作家「ある訳ないでしょう!」
編集「そーっか、そうか、だからイメージができないんですね、わっかりました!」
作家「分かったって、なにか具体的なアドバイスでも?」
編集「はい! 手配しときますんで! 午前2時、またこのビルでお待ちしてます」
作家「深夜2時?」

○出版社ビル エントランス 深夜2時
作家「ふぁーあ(あくび)。言われた通り来ましたけど、どこ行くんですか」
編集「地下の会議室です。どうぞこちらへ」

○出版社ビル 地下 深夜2時
作家「失礼します……って、えっ!」
(ドアの閉まる音)
編集「ばっちり手配いたしました! 縛られた人間です!」
作家「へ? 人間?」
編集「先生、人、殺したことないからリアリティが出ないんですよね! なら殺せばリアリティでますよね」
作家「は!? で、でも誰ですかこれ、殺すって」
編集「大丈夫です! ウチのツテでね、大丈夫なのを手配しましたんで! じゃ、どうぞ」
作家「そんな、知らない人を突然殺せって」
編集「知らない人だからいいんじゃないですか、動機もない! 足がつきにくい、ってミステリ作家さんには釈迦に説法でしたね。死んでもいい人、見繕ってますから」
作家「死刑囚とか、ですか?」
編集「それはヒ・ミ・ツです。先生、売れたいでしょう? そろそろデビュー作の貯金も尽きてきて……借金、きついって聞きましたよ」
作家「それは」
編集「先生の作品に足りないのはリアリティだけ、ですから! 次の作品は大当たりですよ!」
作家「おおあたり……」
編集「ね、先生、重版出来の枡酒でも割るつもりで! 一発ドカンと!」
作家「いや、でも、殺すなんて」
編集「先生、デビューから5年の仲でしょう、ここまで手配したウチのこと、信頼してくださいよ、後のことも大丈夫ですから」
作家「後のことも……」
編集「さっ、作品中ではトンカチのあと素手で殴打ですよね? どうぞトンカチです。そーれ、先生のちょっといいとこ見てみたい!」
作家「ハーッ、ハーッ、ハーッ(あらい息)」

(殴打音、何度も響く)

作家「おえっ、げほ、ごほ(嘔吐)」
編集「やっぱり吐くんじゃないですか! おえっ僕ももらいゲロしちゃうな、おえっ」
作家「ベトベトで、汗だくで、気持ち悪い」
編集「でしょう! リアリティ、感じてもらえました? 今ならイメージ、できそうですか?」
作家「そ、そうですね、血と肉のにおい、体の痛み、これがリアリティ……」
編集「良かったです! じゃ、行きますか」
作家「次はどこに」
編集「やだな、警察ですよ! 人殺したら犯罪ですから!」
作家「は?」
編集「大丈夫ですよ、監獄でも文章は書けます! いやー売れるだろうな、殺人犯の書いた殺人モノ、究極のリアリティ!」
作家「えっ、これ、殺人? 殺してもいいって」
編集「それ、僕の嫌いな先輩! 僕的に殺していい奴見繕ってきたんですよ、いやあ嫌いなやつも始末できて万々歳ですね! あはは、出所する頃には先生印税でウハウハですよ」
作家「あんた、あんたは、なにを……」

(トンカチを振り上げる風切り音)
(殴打音、何度も何度も響く)

作家「ははっ、あははははっ」
作家「はは、今まで散々、くそ、この……あは、あはははは」
作家「なんだ、やっぱり」

(殴打音)

作家「笑う方が、リアルじゃないか」
作家「はは、あははははは、ははははは」

(笑い声が響くままフェードアウト)

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