あらすじ
もし憧れの人に宇宙人疑惑がかかったら、宇宙人対策のエージェントはどうする?
私は女子校の学生かつ侵略宇宙人を排するエージェント。
憧れのクラスメイト、唐津さんに宇宙人疑惑がかかってしまう。宇宙人の弱点はチョコレイト。
唐津さんの疑いを晴らすために私はバレンタインに合わせてチョコレイトを食べてもらおうと四苦八苦する。
唐津さんは本当に宇宙人なのか、甘いものが苦手な唐津さんはチョコを食べてくれるのか、そして私の恋の行方は……。
登場人物
私 宇宙人を排するエージェントであり女子校の学生。感情があふれ出るところがある。
唐津さん 私のクラスメイトであり憧れの人。クール美人。
本編
私「もしもし、ボス?
夜に珍しいですね。
私ですか? 今は、明日のバレンタインの準備のために、鶏肉2キロ、からあげの下味つけてます。
もう、ボスは女の嗜みをご存知ないな。
女子校のバレンタインなんて実質お菓子パーティーなんですよ。で、甘いものだらけになるから、口直しにしょっぱいものを持ってきた子が一番気が利くってわけ。
ほら、前にも話した唐津さんに良いとこ見せたくて!
そう、唐津さん、甘い物苦手だから、違うもの渡して気を引きたいっていうか! も〜! 好きになってもらっちゃったらどうしよう!
やだ、恋人できてもエージェントは辞めませんよ。
あ、はい。で、何の用ですか。
急ぎの任務ですよね? また宇宙人が現れました?
ふむ、ふむ、名前はガムガム星人、地球侵略の偵察中。弱点はチョコを摂取すると溶けると。なんかバレンタインに弱そうな宇宙人ですね。
え? 宇宙人の疑いが、クラスメイトの、唐津さんに? いや、そんな、まさか!
確かに唐津さんの肌は白磁のように透き通っていて、爪は桜色の貝殻みたいで、髪は真っ白なシルバーヘアですけど、浮世離れした美しさだからって宇宙人だとは、ねえ?
ほら、別に、甘いものが苦手なぐらいで……チョコは、確かに去年は全部断ってたけど……食べてるところを見たことないけど……
もう、わかりました! 明日チョコを一口でも食べさせれば疑いは晴れますね!
私に任せてください、ボス!
超絶ラブリーでキュートな私の魅力でチョコの1つや2つ食べさせてみせます!」
(朝を示すコケコッコーの音)
(廊下を歩く足音)
私「とはいったものの、せっかく唐揚げで胃袋掴むつもりが、嫌いなチョコを押し付けるなんて。
はあ。憂鬱すぎてこんな朝早くに学校来ちゃった。」
(教室ドアの引き戸の音)
唐津「や。早いね」
私「か、唐津さん! おはよう! 唐津さんも早いね。用事? 部活?」
唐津「いつもこれぐらいだよ」
私「へー。朝強いんだ」
唐津「まあね。朝の教室で自習するのが一番捗る」
私「まじめ」
唐津「学内1位が何を言うんだか」
私「私は、ほら、地頭の良さっていうか」
唐津「はいはい」
私「あ、ねえねえ、今日なんの日か知ってる?」
唐津「2月14日。聖ヴァレンティヌスが亡くなった日?」
私「惜しい!」
唐津「はは、バレンタインでしょ。知ってるけど、あんまり好きなじゃないからね」
私「甘いもの苦手だから?」
唐津「それもあるけど。ほら、こう見えてモテるから、色んな所で声かけられるんだ。面倒で。いっそ今日一日サボろうか迷ったぐらい」
私「唐津さんかっこいいもんね」
唐津「はいはい、顔がいいだけですよ」
私「顔も声も性格も好きだけどな、私」
唐津「はいはい、お世辞をどうも」
私「お世辞じゃないよ!」
唐津「ふふ、私も君のこと好きだよ、割とね」
私「えっ……きゅん……」
唐津「ふふ、かわいいな」
私「きゅん。ね、朝ごはん食べた? 唐揚げ作ってきたの。一個どう?」
唐津「そのお重全部唐揚げ? すごい量。じゃあお言葉に甘えて。いただきます」
私「どう?」
唐津「もぐもぐ……うま。おいしいよ。さんきゅ」
私「えへへ。えへへへへ」
唐津「気が利くね。今日は甘いものばっか押し付けられると思ってた」
私「そう思って唐揚げ仕込んできたの。あ、チョコも手作りなんだ。糖分補給にどう?」
唐津「あ、いや、チョコは良いや。さんきゅ」
私「唐揚げは食べられてチョコは食べられないって言うの!」
唐津「えっ、急に怒るじゃん。おもろ。はは、手作り唐揚げのほうが、溶かして固めたチョコより価値が高いでしょ」
私「グラム42円の鶏肉でも?」
唐津「愛情も手間暇もたっぷりじゃん? しっかり下味ついてて、衣サクサクで、中がじゅわっとしてて美味しかったよ」
私「食レポ完璧で好き。好き度がどんどん上がってく。でも、好きだけど、チョコも食べてくれたらもっと好き」
唐津「こだわるね。うーん、チョコ苦手なんだよね。甘いの好きじゃないし」
私「そんなあなたにカカオ99%」
唐津「用意周到。なに、そんなに私にチョコ食べさせたい?」
私「だって、バレンタインだよ?」
唐津「チョコなんか無くても、私の気持ち、知っててくれると思ったけどな」
私「えっ、それって、その、つまり」
唐津「君は私のことが好きで、私は君のことが好き。ちがう?」
私「ちちちちちちちちがわない!」
唐津「ふふ。かわい。付き合っちゃう?」
私「つつつつつつつつ付き合っちゃうってなにするの?」
唐津「うーんと、手、出してみて」
私「こう?」
唐津「そ。指と、指をこう絡めて、ぎゅっとする」
私「や、やらしいよ、なんか」
唐津「そう? 序の口。もっとやらしいこと、したいけどな」
私「もっと? も、もっと? ああああ好き! じゃなくて。やらしいことするなら、好きって証拠見せて」
唐津「うん。いいよ。何が良い?」
私「チョコを一口」
唐津「ふふ。頑固だな。自分を貫いてるとこ、好きだけど。そんなにチョコ食べさせたい?」
私「チョコを食べてくれないと死ぬ……」
唐津「愛重いな。んー、まじで苦手だから、吐くかもよ」
私「受け止める! 手のひらで!」
唐津「愛重いな」
私「だめ?」
唐津「うーん。仕方ないな。チョコ食べたのバレたら、他の子にも大量に押し付けられちゃうから、ふたりだけの秘密だよ。いいね?」
私「秘密って、特別っぽくていいね」
唐津「好き同士って、特別でしょ? 私は特別だと思ってるよ、君のこと。じゃ、まじで吐いたらごめんね。いただきます」
私「ど、どう? おいしい?」
唐津「ごくん。うん、おえ、え、ごめ、ちょっと」
私「え、うそ、やだ、ごめん、わたしがむりやり」
唐津「なんて。ん(キス音)。おいしかったよ。ありがと」
私「ん???? ん!!!!! ファーストキスはチョコの味……!」
唐津「もらっちゃっちゃ」
私「すき!!! あ、誰か来た。また今度、続き、また今度ね! あとでね! ね、おはよ、唐揚げ作ってきたんだ、あ、ガトーショコラおいしそう」(フェードアウト)
(ドアの音)
(ぺたぺたとゴムの足音)
唐津「あぶなかっちゃ」
唐津「ちょっと舌とけちゃっちゃ」
唐津「いちゅまで騙しきれるかなあ。ちきゅーじんさん(ぺろ、舌なめずり)」